人生ぬるま湯主義

つれづれなるままに以下略

社会適合者さんはこんな短歌を詠んでいるんだぜ(20選シリーズ)

この愛を僕は証明してみせる後はいくらを課金すればいい?


脱ぎたての君の下着は借りたけど変な事には使わないから


幸せは歩いてこないなら奪え たとえその手を血に染めようと


遺体とは一緒にいたい死体とはいけない事を一緒にしたい


酒好きなあいつの葬儀に泣き顔は似合わないから出そうちんちん


ロックなぞストイックにやる愚者たちの血を吸う赤いリッケンバッカー


音楽を気取る奴等が音楽の鳴る街中でイヤホン着ける


新しい無敵の顔は超合金カバオくんでも噛み砕けない


ぶっ殺す復活させてもう一度さらに殺してまたぶっ殺す


引きこもる行為に理由が要るならばどなたか僕をいじめてくれよ


音楽を奏でるために円盤も鍵盤さえも今はいらない


初恋の愛しのあの子抱いた後そっと手渡す福沢諭吉


仕組まれた三十一文字に感染しソースコードが短歌に変わる


唇で摂取した恋消化して愛が尻から漏れていくのだ


愛情をコンビニに置くスペースで削減されるサラダの売り場


承認はお金で買える承認はお金で買えるお金で買える


可愛いを作れぬ者を口減し可愛いだけが残る原宿


終わらない歌を歌う人のこと刃物で刺したら歌が終わった


たのしいな ああたのしいな あはははは たのしすぎると きがくるいそう


僕こそが真の社会適合者社会の方が僕に合わせる


(written by 社会適合者:http://utayom.in/users/2041







"承認という病"についての思索的な歌/音楽についての歌/変態的な性愛の歌、が、多い。

いずれにせよ社会適合者さんの短歌は、多くの場合、詩情という観念に喧嘩を売りたがっているかのようなトーンだ。「短歌の言葉」を美しいものにしたがる歌詠みは多い。それに反発するような数々の歌。

詩情的美しさとは違った種類の言葉で編まれた彼の短歌は、逆説的に読み手の、とりわけ歌詠みの心の「イタいトコロ」によく刺さるんじゃないだろうか。そんなことを思った。






ぴかぴかに磨きをかけた言葉たち使って語る僕の自己愛 (根本博基)

七々那ナナさんはこんな短歌を詠んでいるんだぜ(20選シリーズ)

太陽に向かって歩いてきてねって言われたせいで私は迷子

 

ゆうやけは東京タワーに盗まれた 都会の空はいま雨になる

 

青空のむこうのむこうのむこうにはたぶんでっかいモンゴルがある

 

相性の悪い男とするときは死角に入って変顔してる

 

「永遠にいっしょにいよう」と言う人がわたしの道をぐちゃぐちゃにする

 

そうなのか 私みたいなやつだからうちあけられることがあるのか

 

すぐそばをスーツのカナが歩いててわざと降りなかったのさっきのバス停

 

あのちゅーが最後だったということは 眠眠打破で打破するつもり

 

"必要としてくれる人が多いほう" 卒業式にバイトを入れた

 

コマンドを「ぼうぎょ」にしても半分は傷つくのなら常に「こうげき」

 

「先輩は利き手が左なんですね」優しく伝えてくれてありがと

 

絶対に人を傷つけない君は傷つけかたを熟知している

 

好きだけじゃ上手くいかない恋なんて 知ってしまった17の夏

 

街中にスカルプチャーが香るだけで振り向くようになってしまった

 

くだらないうそをつくとき目をそらす うそが下手だと信じていてね

 

あんなにも子ども嫌いの友人は産んで、私は子どもが好きで。

 

あたたかくやさしい瞳で「がんばれ」と命令形を使う人たち

 

宇宙から逆にふわふわ見上げたら 東京ってば、こんなに、銀河。

 

「来世では優しい人になりたい」と言った少女の来世が私

 

こうやって人と笑っているうちに笑い話になりますように

 

(written by 七々那ナナ:http://www.utayom.in/users/439

 

 

 

 

 

優しい人になりたくて生まれ変わったのに、ナナさんの短歌の主人公はいまでもずっと迷子のままだ。この人が詠む短歌の語り手が生きている日々は、なんでこんなにもままならないんだろう。

女性の感情がストレートに表現された歌が多い。それは時には男に対して狡猾な仮面をかぶって振る舞う女性であったりするが、多くの場合、周りの環境に振り回されて自分自身にしがみついて耐えている女性だ。

ところで、僕はいま、このコメントを書くことを躊躇してしまっている。僕がどれだけナナさんの短歌に対してコメントを書きつらねたとしても、ナナさんの短歌が放つ熱を冷ましてしまう結果にしかならないんじゃないかと思ってしまうからだ。

上に引用した20首を読んで何かしらを感じた人は、リンクからうたよみんの歌人ページに飛んで、ナナさんの短歌を一気に読んでみるのがいい。僕のコメントを読んでいる暇があったら。そう思う。

 

 

 

 

大切なものがない部屋 発泡酒の空き缶だけがきらきら光る (根本博基)

あんず和菓子さんはこんな短歌を詠んでいるんだぜ(20選シリーズ)

じっくりとコトコト煮込んだ恋心 スパイスで あっ 振りすぎちゃった

 

法則に気づいた あたし 恋すると 苺ミルクをちょっぴり残す

 

2ミリずつずらした机ゆくゆくはきみの隣に着く予定です

 

侮れぬ小指同士のお約束 以後、積極的に使います

 

漱石が好き」と綺麗な三日月の夜に告げるその不器用さ 好き

 

女子大生! 寝るなら寝るで肩貸すよ! どうせ終点まで降りないし!

 

さようなら また会いましょう いつかまた 出来れば明日の午前中でも

 

嬉しいな  こんなに噂してくれるなんてハクションしあわへクション

 

格安のお揃いシャンプー買ってみた 枝毛増えたがきみの香りだ!

 

この際ね 熱は出ちゃって欲しいんだ あなたの風邪を貰いたいんだ

 

「あなたって、空気みたいね」「褒めてるの?」「そうよ、いないと息苦しいし」

 

あ、もしもし わたくし赤い糸電話サービスですが はなしませんか?

 

ミルクティ、くちづけしよう 今日だけはちょっと多めにシュガーを添えて

 

クッキーは焼きたてこそが至高です 冷めない距離に住んでみません?

 

「女子校のバレンタインを知ってるか」「ああそれはもう戦場らしい」

 

鳩でさえ口づけし合う春なのに おまえときたら わたしときたら

 

叶わない恋のサンプルと呼ぶにはちょっと手厳しすぎやしないか

 

疲れた日いつも頼むの梅サワー きみの名字に似てるだけです

 

「好き、嫌い」ちぎる花びらいつの間に「許す、許さない」になったんだ?

 

長時間 熟成させた恋心 オーブンで焼いてみました 焦げた

 

(written by あんず和菓子:http://www.utayom.in/users/690

 

 

 

 

一字空け、鍵括弧、句読点。和菓子さんの短歌には、読み手に読むリズムを強制するような修辞が多い。しかも、そうやって指定されるリズムが、多くの場合、57577をスラスラ読んでいくようなリズムではない。読み手は立ち止まらなくていいところで立ち止まることになる。なぜか? それは短歌の語り手の思考が、そこで一度止まっている、スムーズに流れていないからだ。

見渡すと、句またがりの歌も多い。これもまた、和菓子さんの短歌独特のリズムを生みだしている。

ぴったり57577になっていて、特に立ち止まる必要もなく読める歌では、たいてい、語り手は自信満々で何かを語っている。

そう、語り手が誰かに語りかけているスタイルの歌が多いのも特徴だ。語りかけてはいるのだけれど、それが相手に届くことを最初からどこかであきらめているようなトーンも感じられる。

机を2ミリずつずらしてみたり、クッキーが冷めない距離とまで言って一緒に住もうとは言わなかったり、思い切りがいいんだか悪いんだかわからない願望も、和菓子さんの短歌の魅力のひとつだ。

 

 

 

 

肉まんをはんぶんこしよ こうやって……大きい方はどっちが食べる? (根本博基)

紅絹さんはこんな短歌を詠んでいるんだぜ(20選シリーズ)

この町は優しい嘘で出来ていて云ってはいけないことばかり有る

 

絡ませた指から花に成っていく病をずっと欲してるのに

 

音楽も流れてきたし踊ろうか 正しいだけのマシンのように

 

少年は少年を恋う 未だ名の付けられてない薔薇が咲く夜に

 

ペコちゃんを盗んだ夜は本当に君に似てると思っていたの

 

星を見て「遠いね」と云う 淋しいという語を持たないアンドロイドは

 

綿でなく五臓六腑で出来ている人形なんて捨ててしまえよ

 

妹の裸体は綺麗 寝台で開けた深夜のポテトチップス

 

唇を触れさせるべきときでさえ神父みたいに話しやがって

 

歌えない人魚なんかを閉じ込めて恋をした気になっているのね

 

真夜中の植物園であの子には云えないことをしてしまおうか

 

散らないでいるなら造花でも良いし寝てくれるなら貴方でも良い

 

闇を行く最終バスで真っ白な指を絡める少女と少女

 

手懐けた一角獣に見せ付ける芝生のうえの僕等の情事

 

また少しアリスめいてく友人に口紅を塗り衣装を着せる

 

例文は何時も正しい メアリーとジェーンが愛し合っていてさえ

 

接吻のあとも寝ている振りをした 待っているのは王子ではない

 

地上へと沈みつつある観覧車 この恋でさえ何時かは終わる

 

この橋を渡ればきっと帰れない 小石、歯車、硝子の小鳥

 

本当の空なんて無い街なのに花も貴方も何を見てるの

 

(written by 篠原紅絹:https://twitter.com/nubatamanoyume3

 

 

 

紅絹さんの短歌はとても淋しくて、とても美しくて、そしてときどき妖艶だ。

硝子玉の中に映るお伽噺や神話の世界を切りとったかのような短歌の数々。少女愛、少年愛、夜、星、植物、といったモチーフが繰り返し登場するこれらの短歌を読んでいるうちに、不思議な森に分け入ってしまったような、”ここ”ではない街に迷い込んでしまったような、そんな感覚にとらわれてくる。

日常の裏には非日常が、光の裏には闇が、常に優しく寄り添っているのだということを教えてくれる短歌たちだ。

 

 

 

終止符を打つことを忘れたままの日記を抱いて夢を見ていた (根本博基)

ぬこさんはこんな短歌を詠んでいるんだぜ(20選シリーズ)

象たちの墓場のような車庫で待つ始発のバスが目を開けたとこ

 

暗がりの部屋で何かを踏んづけた 感触的におそらく眼鏡

 

きみんちの切れにくかった包丁を思い出しつつレモンの輪切り

 

色あせた栞がわりのレシートが語るその日のメニューはカレー

 

地下鉄でからんできたサラリーマンのズボンの丈がすごく短い

 

オレンジをきりきり強く絞ってもりんごジュースは出ないのでした

 

外人に言った駄洒落を丁寧にどう笑うのか訳されている

 

スプレーでおさえこまれた脇汗はいったいどこにいくんだろうね

 

パンだけどたぶんすべてのやどかりが住みたがるほどきれいなコロネ

 

問題は、濡れて絵が出るシステムに 君が気づかず捨ててないかだ

 

右上のツキノワグマに気づかずにひとりでピースしてるのが俺

 

電柱は実は8割ミサイルで 有事の際に飛ぶ仕様です

 

神業の駐車スキルはさておいて この隙間からどう降りますか

 

そういった意味でおすすめできそうな男子はすべて既婚者である

 

思い出のねむたいとこにいるきみに何をつたえたかったか忘れた

 

大抵のことはそつなくこなすのに牛乳パックをあけるのが下手

 

残業の暗いオフィスにでる霊が教えてくれたエクセルのコツ

 

ねえさんが偽物みたいにやさしくて大きい方のケーキをくれる

 

そのあとで、カレーはついに完成し いよいよ米を買いに走った。

 

バランスが良くないなりのバランスで奇跡のように保たれている

 

(written by ぬこ:http://www.utayom.in/users/1118

 

 

 

 

 

ぬこさんは、シチュエーション短歌の名手だ。そして、絶妙な形容を生みだす名手でもある。

読んでみればわかるように、異様な/異質な/非日常的な場面を切りとった短歌が多い。それも、わざと部分を大きく取り上げて全体にしてしまうような、シチュエーションそのもののおかしさと、ちぐはぐな描写のおかしさ。

バスの停留所を像の墓場に、チョココロネを巻貝の貝殻に喩えてしまう言語センス。

ときおり見られるしっとりした短歌が、また、いい。

ここに引いた20首だけでなく、うたよみんの歌人ページなんかでぬこさんの短歌を一気に読んでいると、まるで養老天命反転地(参考:http://gigazine.net/news/20100613_yourou_tenmei_hantenchi/)を歩いているような感覚に見舞われるのは僕だけではないはずだ。

最後に引いた「バランスが~」の歌が、短歌としていい作品であるだけでなく、そのままぬこさんの短歌の特徴を現した歌になっていると思う。

 

 

なるほどね、グラデーションになってんだ それで5巻はどの棚のどこ? (根本博基)

ネネネさんはこんな短歌を詠んでいるんだぜ(20選シリーズ)

「ねえ先輩、酔ったふりしてキスをした女のことをどう思います?」

 

少しだけのんびり二度寝をした春にあの子は泣いてた ごめん、ごめんね。

 

失敗は大失敗に隠せって前に何かの本で読んだよ

 

友達の境界線を飛び越えてこっちに来てよ、ねえほらはやく

 

降る雨の音をいっしょに数えたり いびつな形でつながったり、した

 

抱きしめてキスする前に言わなくちゃいけないことがあるんじゃないの

 

ヘルメットごしではキスはできなくて左ほっぺのえくぼを見てた

 

運命はないと思って生きている あたしの未来はあたしがつかむ

 

友達の家に泊まるよなんて嘘もう何度目か忘れちゃったよ

 

どうしてもあなたじゃないとダメらしい どうやらわたしは一途なようで

 

ほんとうは泣いて喚いてすがりたい でもほらそれは、美人のすること

 

あの人は恋人と行く旅先でいつもわたしに絵葉書を買う

 

ほっとして、緊張してまたほっとして、スーツの体が重たい電車

 

同じ服 同じ髪型 同じ顔 同じ理由の志望動機で

 

限られた天才たちのためだけに僕らのような凡人がいる

 

あの人のバイクの後ろに乗るまではわたしほんとに「いい子」だったの

 

ぜったいに忘れられない気がしてた だってあんなにキスをしたのよ

 

しばらくは聴けない歌もありますが、涙は出ません、大人ですから。

 

ねむれない夜もあったし前なんて向けない日々もあったんだった

 

前にしか進んじゃいけないわけじゃない 後戻りだってちゃんと勇気だ

 

(written by ネネネ:http://www.utayom.in/users/1149

 

 

 

ネネネさんの短歌には、不器用な恋の歌が多い。それは相手の気持ちの問題でままならない恋の歌であったり、盲目的に幸せに浸ってしまうことができない、なぜか冷静になってしまう主体の歌だったりする。あと、キスが詠みこまれた歌も多くて、それがどれも素敵な歌なのが魅力だ。

時々は強気になってみせるけど、基本的には必死でもがいて何とか息継ぎをしようとしている、その必死さに胸を打たれてしまう、みたいな短歌の数々。

うたよみんに投稿してある短歌の中からまとめようと思っていたのだけれど、Twitterにだけ投稿されていた短歌をチェックしてみたら、そちらにもいい歌が多かったので、うたよみんには投稿されていない短歌も使って20首並べてみました。

 

ぜったいに届かないって知っていて伸ばした腕が下せないまま (根本博基)

根本博基自選20首

字余りの短歌みたいにぐずぐずと生きている僕だけど許してほしい

 

 

マジシャンが右手に持って見せているタネも仕掛けもないはずの愛

壁もあり底もあるからプールでは優雅に泳いでいられる僕ら

 

きっとまた立ち直ったら連絡をよこさぬ君をなぐさめている

もう恋じゃないと感じる一方で抱きしめたいと思ってしまう

 

まわれ右してもいいけど回数は偶数回というのがルール

サンダルのままでも走れることを知る 空はひたすら青くて遠い

 

乙女だしゴーゴンだって君の眼は綺麗だねとか言われてみたい

ユニコーンの飼育係をクビになる覚悟で挑むあすのデートは

 

迷惑をかけまいとして閉じこもる殻で誰かを傷つけていた

誰かへの好意とかではなくこれは優しさという名の処世術

 

おさるからホモサピエンスに進化したときが僕らのピークでしたね

カップ麺にお湯を注いで待ちましょう 世界平和が訪れるまで

 

お風呂にてバブを入れればなぜでしょう湯船に満ちるファンタオレンジ

夕焼けがすっかり雲に溶けたのであすは真っ赤な雨の予報です

 

殺された名探偵が暗号で遺したメモを誰も解けない

密室となった書斎に残された鍵と死体とわたしの指紋

 

吊り橋のせいだとしても気のせいじゃないと思った胸の高鳴り

まだ恋と決まったわけじゃないけれど自炊をしたくなる日は増えた

 

 

生きづらい世の中ですが死にづらい諸事情もあり生きてゆきます

 

 

 

 

 

 

130首から20首選ぶということは裏を返せば100以上捨てるということで、その限られた数の歌をどう配置すればよいのか、非常に悩ましい。もっと作品の点数が多い人の20選なんか、それはそれは大変な苦労をして20首残したのだな、と自分でやってみて思った。

今回の構成は、「ベストアルバム」にはしなかったつもり。はっきりと、あるいはぼんやりと、テーマを同じくしている短歌をセットにして2首ずつ並べてみた。だいたいこんな短歌を作ってます、って自己紹介?になるようにしてみたのだが……はたして、うまくいっているだろうか。