人生ぬるま湯主義

つれづれなるままに以下略

紅絹さんはこんな短歌を詠んでいるんだぜ(20選シリーズ)

この町は優しい嘘で出来ていて云ってはいけないことばかり有る

 

絡ませた指から花に成っていく病をずっと欲してるのに

 

音楽も流れてきたし踊ろうか 正しいだけのマシンのように

 

少年は少年を恋う 未だ名の付けられてない薔薇が咲く夜に

 

ペコちゃんを盗んだ夜は本当に君に似てると思っていたの

 

星を見て「遠いね」と云う 淋しいという語を持たないアンドロイドは

 

綿でなく五臓六腑で出来ている人形なんて捨ててしまえよ

 

妹の裸体は綺麗 寝台で開けた深夜のポテトチップス

 

唇を触れさせるべきときでさえ神父みたいに話しやがって

 

歌えない人魚なんかを閉じ込めて恋をした気になっているのね

 

真夜中の植物園であの子には云えないことをしてしまおうか

 

散らないでいるなら造花でも良いし寝てくれるなら貴方でも良い

 

闇を行く最終バスで真っ白な指を絡める少女と少女

 

手懐けた一角獣に見せ付ける芝生のうえの僕等の情事

 

また少しアリスめいてく友人に口紅を塗り衣装を着せる

 

例文は何時も正しい メアリーとジェーンが愛し合っていてさえ

 

接吻のあとも寝ている振りをした 待っているのは王子ではない

 

地上へと沈みつつある観覧車 この恋でさえ何時かは終わる

 

この橋を渡ればきっと帰れない 小石、歯車、硝子の小鳥

 

本当の空なんて無い街なのに花も貴方も何を見てるの

 

(written by 篠原紅絹:https://twitter.com/nubatamanoyume3

 

 

 

紅絹さんの短歌はとても淋しくて、とても美しくて、そしてときどき妖艶だ。

硝子玉の中に映るお伽噺や神話の世界を切りとったかのような短歌の数々。少女愛、少年愛、夜、星、植物、といったモチーフが繰り返し登場するこれらの短歌を読んでいるうちに、不思議な森に分け入ってしまったような、”ここ”ではない街に迷い込んでしまったような、そんな感覚にとらわれてくる。

日常の裏には非日常が、光の裏には闇が、常に優しく寄り添っているのだということを教えてくれる短歌たちだ。

 

 

 

終止符を打つことを忘れたままの日記を抱いて夢を見ていた (根本博基)