人生ぬるま湯主義

つれづれなるままに以下略

作者は自作を誤読する

タイトル通りの話をします。

僕自身の例をとりましょう。

 

 

不意打ちにときめいたけど恋になる人でもなくて笑って済ます

 

 

という短歌についてです。

 

この歌を作ったのは2016年、「不意打ちにときめいたけど」という5・7ができたもののそのあとに繋げる内容が浮かばずにいたところ、そういえば、あれは2012年だったでしょうか、大学生だったころに、友だちの女の子に「いまのはきゅんとした。まあ、だから何がどうなるってわけでもないんだけど(要旨)」と言われたのを思い出し、これを使ってしまうことに。しかし〈~と笑われた〉のように受動で書くとどうにも57577におさまらなかったものですから、じゃあ視点を変えて能動にしよう、ということでまとめた短歌です。

 

……さて、以上の説明は、「この短歌についての解説」になっているでしょうか。

答えは否です。これはあくまでも「作歌事情の解説」であり、ただの「裏話」にすぎません。もとの短歌のどこをどう読んでも、以上のようなことは読み取ることはできないからです。

 

では、あらためてこの短歌を解釈してみましょう。

「不意打ちにときめいた」ということばから、語り手*1が対象の何らかの行動を「不意打ち」と感じ「ときめいた」ということがわかります。が、続いて「けど」という逆接の接続語が使われ、「恋になる人でもなくて」と続く。語り手は、自身と対象の関係を、今後恋愛関係になる可能性がないものと想定しているようです。結果、その場限り「笑って済ます」のだと。いかにときめきを感じようと、それはそれ。軽く笑って済ましてしまえる程度の些細な出来事にすぎなかったのだ。という歌意でしょう。

 

ところが、上のような僕自身の解釈とは少し異なった解釈をされた方がいます。以前に「世界平和が訪れるまで - ふしぎなしまのフローネ」←の記事で拙作を紹介・感想を書いてくれたネネネさんです。彼女はこの記事の中で「不意打ちに~」の歌を引いて、このようにコメントしています。

 

これね~~笑って済ませられるといいよね~~(誰目線)
不意打ちが何だったのか妄想してニヤニヤしました。

 

「笑って済ませられるといいよね」というコメントに、僕の解釈との差異を認めることができます。僕が「笑って済ます」という部分を持続的・不変的な「態度」と捉えたのに対し、ネネネさんは一回的・臨機的な「対応」と捉えたのでしょう。

「恋になる人でもなくて」を重く見ると前者、「不意打ちにときめいた」を重く見ると後者の解釈になるのでしょうか、いずれも、もとの短歌からして充分な妥当性を持った解釈であるように思われます。

では、僕の解釈とネネネさんの解釈、どちらが「より相応な」解釈だと(などと比較することは本来それほど意味を持たないとわかった上で)言えるでしょうか。

 

これは、ネネネさんの解釈の方だと思うのです。

というのも、この短歌の語り手は、わざわざこの出来事を語っているからです。

ふつう、我々は、「その場限りで終わってしまった些細な出来事」については特に記述したり、誰かに語って聞かせることはありません。そうしたくなるような出来事は、すでに「些細な」出来事ではない。自分もしくは語る相手にとって何らかの意味を持っている場合にのみ、我々はある出来事をことばにする。

そう考えると、「笑って済ま」せたはずの「不意打ち」が、何らかの形で語り手の心に留まっていると考えるのが妥当だと言えないでしょうか。語り手本人が自覚しているのかどうかはともかくとして、少なくとも、ここで語り手が想起している出来事は、語り手の記憶に残り、記述したくなるような出来事なのです。

 

……さて、ここでタイトルの内容に戻ります。

「不意打ちに~」というこの短歌の作者である僕の「読み」は、不適当ではないもののさらに妥当性の高い読みがあった、言ってしまえば「誤読」だったわけです。ではなぜ作者であるにも関わらず、自作を誤読してしまったのか。

答えは簡単で、「なまじ作歌事情を知っているせい」です。「軽く笑って済まされてそれっきり」という受動の立場から頭が離れていなかったために、表現を能動に変えたことによる解釈の変化に気づかずにいた。

このように、作者は、自分自身以外すべての読者と違って、「その作品を作者がどのように(どのような意図で)作ったのかを知っている」という色眼鏡をかけて自作を読むようになってしまう。さきほど僕は作者である「にも関わらず」自作を誤読すると書きましたが、実は、作者である「がゆえにいっそう」自作を読み誤る可能性が高くなると言うことすらできそうです。

 

ですから、そんな「作者だからこそ気がつかない解釈の可能性」を指摘してもらえるような評をいただいたとき、僕はとてもうれしく思います。

作者の意図をうまく汲み取って言語化する、というのも優れた評の形態ではありますが、作者が想定すらしていなかった解釈の可能性を提示することもまた、評の大事な仕事であると言えるでしょう。

 

*1:語り手という概念については追記内で

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社会適合者さんはこんな短歌を詠んでいるんだぜ(20選シリーズ)

この愛を僕は証明してみせる後はいくらを課金すればいい?


脱ぎたての君の下着は借りたけど変な事には使わないから


幸せは歩いてこないなら奪え たとえその手を血に染めようと


遺体とは一緒にいたい死体とはいけない事を一緒にしたい


酒好きなあいつの葬儀に泣き顔は似合わないから出そうちんちん


ロックなぞストイックにやる愚者たちの血を吸う赤いリッケンバッカー


音楽を気取る奴等が音楽の鳴る街中でイヤホン着ける


新しい無敵の顔は超合金カバオくんでも噛み砕けない


ぶっ殺す復活させてもう一度さらに殺してまたぶっ殺す


引きこもる行為に理由が要るならばどなたか僕をいじめてくれよ


音楽を奏でるために円盤も鍵盤さえも今はいらない


初恋の愛しのあの子抱いた後そっと手渡す福沢諭吉


仕組まれた三十一文字に感染しソースコードが短歌に変わる


唇で摂取した恋消化して愛が尻から漏れていくのだ


愛情をコンビニに置くスペースで削減されるサラダの売り場


承認はお金で買える承認はお金で買えるお金で買える


可愛いを作れぬ者を口減し可愛いだけが残る原宿


終わらない歌を歌う人のこと刃物で刺したら歌が終わった


たのしいな ああたのしいな あはははは たのしすぎると きがくるいそう


僕こそが真の社会適合者社会の方が僕に合わせる


(written by 社会適合者:http://utayom.in/users/2041







"承認という病"についての思索的な歌/音楽についての歌/変態的な性愛の歌、が、多い。

いずれにせよ社会適合者さんの短歌は、多くの場合、詩情という観念に喧嘩を売りたがっているかのようなトーンだ。「短歌の言葉」を美しいものにしたがる歌詠みは多い。それに反発するような数々の歌。

詩情的美しさとは違った種類の言葉で編まれた彼の短歌は、逆説的に読み手の、とりわけ歌詠みの心の「イタいトコロ」によく刺さるんじゃないだろうか。そんなことを思った。






ぴかぴかに磨きをかけた言葉たち使って語る僕の自己愛 (根本博基)

七々那ナナさんはこんな短歌を詠んでいるんだぜ(20選シリーズ)

太陽に向かって歩いてきてねって言われたせいで私は迷子

 

ゆうやけは東京タワーに盗まれた 都会の空はいま雨になる

 

青空のむこうのむこうのむこうにはたぶんでっかいモンゴルがある

 

相性の悪い男とするときは死角に入って変顔してる

 

「永遠にいっしょにいよう」と言う人がわたしの道をぐちゃぐちゃにする

 

そうなのか 私みたいなやつだからうちあけられることがあるのか

 

すぐそばをスーツのカナが歩いててわざと降りなかったのさっきのバス停

 

あのちゅーが最後だったということは 眠眠打破で打破するつもり

 

"必要としてくれる人が多いほう" 卒業式にバイトを入れた

 

コマンドを「ぼうぎょ」にしても半分は傷つくのなら常に「こうげき」

 

「先輩は利き手が左なんですね」優しく伝えてくれてありがと

 

絶対に人を傷つけない君は傷つけかたを熟知している

 

好きだけじゃ上手くいかない恋なんて 知ってしまった17の夏

 

街中にスカルプチャーが香るだけで振り向くようになってしまった

 

くだらないうそをつくとき目をそらす うそが下手だと信じていてね

 

あんなにも子ども嫌いの友人は産んで、私は子どもが好きで。

 

あたたかくやさしい瞳で「がんばれ」と命令形を使う人たち

 

宇宙から逆にふわふわ見上げたら 東京ってば、こんなに、銀河。

 

「来世では優しい人になりたい」と言った少女の来世が私

 

こうやって人と笑っているうちに笑い話になりますように

 

(written by 七々那ナナ:http://www.utayom.in/users/439

 

 

 

 

 

優しい人になりたくて生まれ変わったのに、ナナさんの短歌の主人公はいまでもずっと迷子のままだ。この人が詠む短歌の語り手が生きている日々は、なんでこんなにもままならないんだろう。

女性の感情がストレートに表現された歌が多い。それは時には男に対して狡猾な仮面をかぶって振る舞う女性であったりするが、多くの場合、周りの環境に振り回されて自分自身にしがみついて耐えている女性だ。

ところで、僕はいま、このコメントを書くことを躊躇してしまっている。僕がどれだけナナさんの短歌に対してコメントを書きつらねたとしても、ナナさんの短歌が放つ熱を冷ましてしまう結果にしかならないんじゃないかと思ってしまうからだ。

上に引用した20首を読んで何かしらを感じた人は、リンクからうたよみんの歌人ページに飛んで、ナナさんの短歌を一気に読んでみるのがいい。僕のコメントを読んでいる暇があったら。そう思う。

 

 

 

 

大切なものがない部屋 発泡酒の空き缶だけがきらきら光る (根本博基)

あんず和菓子さんはこんな短歌を詠んでいるんだぜ(20選シリーズ)

じっくりとコトコト煮込んだ恋心 スパイスで あっ 振りすぎちゃった

 

法則に気づいた あたし 恋すると 苺ミルクをちょっぴり残す

 

2ミリずつずらした机ゆくゆくはきみの隣に着く予定です

 

侮れぬ小指同士のお約束 以後、積極的に使います

 

漱石が好き」と綺麗な三日月の夜に告げるその不器用さ 好き

 

女子大生! 寝るなら寝るで肩貸すよ! どうせ終点まで降りないし!

 

さようなら また会いましょう いつかまた 出来れば明日の午前中でも

 

嬉しいな  こんなに噂してくれるなんてハクションしあわへクション

 

格安のお揃いシャンプー買ってみた 枝毛増えたがきみの香りだ!

 

この際ね 熱は出ちゃって欲しいんだ あなたの風邪を貰いたいんだ

 

「あなたって、空気みたいね」「褒めてるの?」「そうよ、いないと息苦しいし」

 

あ、もしもし わたくし赤い糸電話サービスですが はなしませんか?

 

ミルクティ、くちづけしよう 今日だけはちょっと多めにシュガーを添えて

 

クッキーは焼きたてこそが至高です 冷めない距離に住んでみません?

 

「女子校のバレンタインを知ってるか」「ああそれはもう戦場らしい」

 

鳩でさえ口づけし合う春なのに おまえときたら わたしときたら

 

叶わない恋のサンプルと呼ぶにはちょっと手厳しすぎやしないか

 

疲れた日いつも頼むの梅サワー きみの名字に似てるだけです

 

「好き、嫌い」ちぎる花びらいつの間に「許す、許さない」になったんだ?

 

長時間 熟成させた恋心 オーブンで焼いてみました 焦げた

 

(written by あんず和菓子:http://www.utayom.in/users/690

 

 

 

 

一字空け、鍵括弧、句読点。和菓子さんの短歌には、読み手に読むリズムを強制するような修辞が多い。しかも、そうやって指定されるリズムが、多くの場合、57577をスラスラ読んでいくようなリズムではない。読み手は立ち止まらなくていいところで立ち止まることになる。なぜか? それは短歌の語り手の思考が、そこで一度止まっている、スムーズに流れていないからだ。

見渡すと、句またがりの歌も多い。これもまた、和菓子さんの短歌独特のリズムを生みだしている。

ぴったり57577になっていて、特に立ち止まる必要もなく読める歌では、たいてい、語り手は自信満々で何かを語っている。

そう、語り手が誰かに語りかけているスタイルの歌が多いのも特徴だ。語りかけてはいるのだけれど、それが相手に届くことを最初からどこかであきらめているようなトーンも感じられる。

机を2ミリずつずらしてみたり、クッキーが冷めない距離とまで言って一緒に住もうとは言わなかったり、思い切りがいいんだか悪いんだかわからない願望も、和菓子さんの短歌の魅力のひとつだ。

 

 

 

 

肉まんをはんぶんこしよ こうやって……大きい方はどっちが食べる? (根本博基)

紅絹さんはこんな短歌を詠んでいるんだぜ(20選シリーズ)

この町は優しい嘘で出来ていて云ってはいけないことばかり有る

 

絡ませた指から花に成っていく病をずっと欲してるのに

 

音楽も流れてきたし踊ろうか 正しいだけのマシンのように

 

少年は少年を恋う 未だ名の付けられてない薔薇が咲く夜に

 

ペコちゃんを盗んだ夜は本当に君に似てると思っていたの

 

星を見て「遠いね」と云う 淋しいという語を持たないアンドロイドは

 

綿でなく五臓六腑で出来ている人形なんて捨ててしまえよ

 

妹の裸体は綺麗 寝台で開けた深夜のポテトチップス

 

唇を触れさせるべきときでさえ神父みたいに話しやがって

 

歌えない人魚なんかを閉じ込めて恋をした気になっているのね

 

真夜中の植物園であの子には云えないことをしてしまおうか

 

散らないでいるなら造花でも良いし寝てくれるなら貴方でも良い

 

闇を行く最終バスで真っ白な指を絡める少女と少女

 

手懐けた一角獣に見せ付ける芝生のうえの僕等の情事

 

また少しアリスめいてく友人に口紅を塗り衣装を着せる

 

例文は何時も正しい メアリーとジェーンが愛し合っていてさえ

 

接吻のあとも寝ている振りをした 待っているのは王子ではない

 

地上へと沈みつつある観覧車 この恋でさえ何時かは終わる

 

この橋を渡ればきっと帰れない 小石、歯車、硝子の小鳥

 

本当の空なんて無い街なのに花も貴方も何を見てるの

 

(written by 篠原紅絹:https://twitter.com/nubatamanoyume3

 

 

 

紅絹さんの短歌はとても淋しくて、とても美しくて、そしてときどき妖艶だ。

硝子玉の中に映るお伽噺や神話の世界を切りとったかのような短歌の数々。少女愛、少年愛、夜、星、植物、といったモチーフが繰り返し登場するこれらの短歌を読んでいるうちに、不思議な森に分け入ってしまったような、”ここ”ではない街に迷い込んでしまったような、そんな感覚にとらわれてくる。

日常の裏には非日常が、光の裏には闇が、常に優しく寄り添っているのだということを教えてくれる短歌たちだ。

 

 

 

終止符を打つことを忘れたままの日記を抱いて夢を見ていた (根本博基)

ぬこさんはこんな短歌を詠んでいるんだぜ(20選シリーズ)

象たちの墓場のような車庫で待つ始発のバスが目を開けたとこ

 

暗がりの部屋で何かを踏んづけた 感触的におそらく眼鏡

 

きみんちの切れにくかった包丁を思い出しつつレモンの輪切り

 

色あせた栞がわりのレシートが語るその日のメニューはカレー

 

地下鉄でからんできたサラリーマンのズボンの丈がすごく短い

 

オレンジをきりきり強く絞ってもりんごジュースは出ないのでした

 

外人に言った駄洒落を丁寧にどう笑うのか訳されている

 

スプレーでおさえこまれた脇汗はいったいどこにいくんだろうね

 

パンだけどたぶんすべてのやどかりが住みたがるほどきれいなコロネ

 

問題は、濡れて絵が出るシステムに 君が気づかず捨ててないかだ

 

右上のツキノワグマに気づかずにひとりでピースしてるのが俺

 

電柱は実は8割ミサイルで 有事の際に飛ぶ仕様です

 

神業の駐車スキルはさておいて この隙間からどう降りますか

 

そういった意味でおすすめできそうな男子はすべて既婚者である

 

思い出のねむたいとこにいるきみに何をつたえたかったか忘れた

 

大抵のことはそつなくこなすのに牛乳パックをあけるのが下手

 

残業の暗いオフィスにでる霊が教えてくれたエクセルのコツ

 

ねえさんが偽物みたいにやさしくて大きい方のケーキをくれる

 

そのあとで、カレーはついに完成し いよいよ米を買いに走った。

 

バランスが良くないなりのバランスで奇跡のように保たれている

 

(written by ぬこ:http://www.utayom.in/users/1118

 

 

 

 

 

ぬこさんは、シチュエーション短歌の名手だ。そして、絶妙な形容を生みだす名手でもある。

読んでみればわかるように、異様な/異質な/非日常的な場面を切りとった短歌が多い。それも、わざと部分を大きく取り上げて全体にしてしまうような、シチュエーションそのもののおかしさと、ちぐはぐな描写のおかしさ。

バスの停留所を像の墓場に、チョココロネを巻貝の貝殻に喩えてしまう言語センス。

ときおり見られるしっとりした短歌が、また、いい。

ここに引いた20首だけでなく、うたよみんの歌人ページなんかでぬこさんの短歌を一気に読んでいると、まるで養老天命反転地(参考:http://gigazine.net/news/20100613_yourou_tenmei_hantenchi/)を歩いているような感覚に見舞われるのは僕だけではないはずだ。

最後に引いた「バランスが~」の歌が、短歌としていい作品であるだけでなく、そのままぬこさんの短歌の特徴を現した歌になっていると思う。

 

 

なるほどね、グラデーションになってんだ それで5巻はどの棚のどこ? (根本博基)

ネネネさんはこんな短歌を詠んでいるんだぜ(20選シリーズ)

「ねえ先輩、酔ったふりしてキスをした女のことをどう思います?」

 

少しだけのんびり二度寝をした春にあの子は泣いてた ごめん、ごめんね。

 

失敗は大失敗に隠せって前に何かの本で読んだよ

 

友達の境界線を飛び越えてこっちに来てよ、ねえほらはやく

 

降る雨の音をいっしょに数えたり いびつな形でつながったり、した

 

抱きしめてキスする前に言わなくちゃいけないことがあるんじゃないの

 

ヘルメットごしではキスはできなくて左ほっぺのえくぼを見てた

 

運命はないと思って生きている あたしの未来はあたしがつかむ

 

友達の家に泊まるよなんて嘘もう何度目か忘れちゃったよ

 

どうしてもあなたじゃないとダメらしい どうやらわたしは一途なようで

 

ほんとうは泣いて喚いてすがりたい でもほらそれは、美人のすること

 

あの人は恋人と行く旅先でいつもわたしに絵葉書を買う

 

ほっとして、緊張してまたほっとして、スーツの体が重たい電車

 

同じ服 同じ髪型 同じ顔 同じ理由の志望動機で

 

限られた天才たちのためだけに僕らのような凡人がいる

 

あの人のバイクの後ろに乗るまではわたしほんとに「いい子」だったの

 

ぜったいに忘れられない気がしてた だってあんなにキスをしたのよ

 

しばらくは聴けない歌もありますが、涙は出ません、大人ですから。

 

ねむれない夜もあったし前なんて向けない日々もあったんだった

 

前にしか進んじゃいけないわけじゃない 後戻りだってちゃんと勇気だ

 

(written by ネネネ:http://www.utayom.in/users/1149

 

 

 

ネネネさんの短歌には、不器用な恋の歌が多い。それは相手の気持ちの問題でままならない恋の歌であったり、盲目的に幸せに浸ってしまうことができない、なぜか冷静になってしまう主体の歌だったりする。あと、キスが詠みこまれた歌も多くて、それがどれも素敵な歌なのが魅力だ。

時々は強気になってみせるけど、基本的には必死でもがいて何とか息継ぎをしようとしている、その必死さに胸を打たれてしまう、みたいな短歌の数々。

うたよみんに投稿してある短歌の中からまとめようと思っていたのだけれど、Twitterにだけ投稿されていた短歌をチェックしてみたら、そちらにもいい歌が多かったので、うたよみんには投稿されていない短歌も使って20首並べてみました。

 

ぜったいに届かないって知っていて伸ばした腕が下せないまま (根本博基)