ぬこさんはこんな短歌を詠んでいるんだぜ(20選シリーズ)
象たちの墓場のような車庫で待つ始発のバスが目を開けたとこ
暗がりの部屋で何かを踏んづけた 感触的におそらく眼鏡
きみんちの切れにくかった包丁を思い出しつつレモンの輪切り
色あせた栞がわりのレシートが語るその日のメニューはカレー
地下鉄でからんできたサラリーマンのズボンの丈がすごく短い
オレンジをきりきり強く絞ってもりんごジュースは出ないのでした
外人に言った駄洒落を丁寧にどう笑うのか訳されている
スプレーでおさえこまれた脇汗はいったいどこにいくんだろうね
パンだけどたぶんすべてのやどかりが住みたがるほどきれいなコロネ
問題は、濡れて絵が出るシステムに 君が気づかず捨ててないかだ
右上のツキノワグマに気づかずにひとりでピースしてるのが俺
電柱は実は8割ミサイルで 有事の際に飛ぶ仕様です
神業の駐車スキルはさておいて この隙間からどう降りますか
そういった意味でおすすめできそうな男子はすべて既婚者である
思い出のねむたいとこにいるきみに何をつたえたかったか忘れた
大抵のことはそつなくこなすのに牛乳パックをあけるのが下手
残業の暗いオフィスにでる霊が教えてくれたエクセルのコツ
ねえさんが偽物みたいにやさしくて大きい方のケーキをくれる
そのあとで、カレーはついに完成し いよいよ米を買いに走った。
バランスが良くないなりのバランスで奇跡のように保たれている
(written by ぬこ:http://www.utayom.in/users/1118)
ぬこさんは、シチュエーション短歌の名手だ。そして、絶妙な形容を生みだす名手でもある。
読んでみればわかるように、異様な/異質な/非日常的な場面を切りとった短歌が多い。それも、わざと部分を大きく取り上げて全体にしてしまうような、シチュエーションそのもののおかしさと、ちぐはぐな描写のおかしさ。
バスの停留所を像の墓場に、チョココロネを巻貝の貝殻に喩えてしまう言語センス。
ときおり見られるしっとりした短歌が、また、いい。
ここに引いた20首だけでなく、うたよみんの歌人ページなんかでぬこさんの短歌を一気に読んでいると、まるで養老天命反転地(参考:http://gigazine.net/news/20100613_yourou_tenmei_hantenchi/)を歩いているような感覚に見舞われるのは僕だけではないはずだ。
最後に引いた「バランスが~」の歌が、短歌としていい作品であるだけでなく、そのままぬこさんの短歌の特徴を現した歌になっていると思う。
なるほどね、グラデーションになってんだ それで5巻はどの棚のどこ? (根本博基)