岡本真帆さんはこんな短歌を詠んでいるんだぜ(20選シリーズ)
じゃんけんパー勝って飛びつくえりあしは塩素のにおい 夏が始まる
無駄なことばかりしようよ自販機のボタン全部を同時押しとか
ドリンクバー押すと交互に降り注ぐコーラとコーラではない何か
さわやかな風がそろりと入る網戸バリバリバリバリねこバリバリバリ
ゴミだって思ってみたび触れてしまう表紙の中の小さな鳥に
本来の服の持ち味殺してる私の服の組み合わせ方
砂浜のSOSを踏み潰し、ここは異常のない無人島
特別なことは一つも訪れずさなぎのままで秋の制服
たいせつな話なら今聞きたくない 遮るための電車を願う
くるくると夏のコンパス正しさを描いてふたり離れて眠る
謝らない通行人の頭部見る 傘の先端とんがっている
無駄なことだと言う大人 無駄であることがどうして分かるのだろう
壊れたものでもかまいません壊れたものでもかまいません、かまいませんから
廃線をたどっていこう これ以上雑踏に染まるのはごめんだ
感情をあまり出さない君がする嬉しいときのへたなスキップ
シャーペンの芯を逆流させている君には罪の意識などない
新しい顔はもういい バタコさんきちんと死ねる心臓をくれ
まきびしのはずだったのに敵陣にはじけるこんぺいとうこんぺいとう
まだ何かあるんじゃないかと期待するエンドロールの後の一瞬
何気なく打った数字で開く鍵 ねえこの四桁って、わたしの
(written by 岡本真帆:https://note.mu/mapiction)
岡本真帆さんの短歌には、どこか寂しげな雰囲気のものが多い。寂しげ…というか、心の中に何か欠けた部分を持っている主体を感じるような。「ここではないどこか」へ行きたがっている、と言ってもいいかもしれない。
日常の景色を歌った寂しげな歌の中に、非日常を歌ったドキッとするようなサスペンスめいた歌も登場する。
静かなトーンなんだけれども、それは「何かを抑えている静かさ」なのかもしれない、と感じられるような、そんな短歌の数々。
ぬいぐるみ抱いた少女はあの日々に置き去りにした ごめんね 走る(根本博基)